「あ、シズネ」
「相変わらず忙しそうですね〜」


ライドウとイワシの視線の先には忙しく駆け回るシズネの姿があった。
里に戻ってきてからはのんびりしているのを見た事が無い。常に動き回っては五代目の世話を焼いている。
昼夜問わない五代目の付き人でもあるので、ちゃんと飯を食っているのかも心配になってくる。あの細っこい身体のどこにあれだけの元気があるのか不思議でもある。


ゲンマは通りを慌しく駆けていくシズネを見送り、二人の後をのらりくらりと歩いていった。



任務待機室のある場所には食堂もある。
今日の昼飯は秋刀魚に豆腐の味噌汁、胡瓜の漬物、ほうれん草の和え物、それに白米だった。ほかほか湯気を立てる白飯を前に両手を合わせてありがたく頂戴する。
暫くは三人で他愛も無い事を喋りながら昼食を進め、食べ終わったところで緑茶を飲んで一息ついていると
そこに今日二度目のシズネが現れた。
たくさんの書籍、書類を抱えている。食堂は既に人もまばらだ。すれ違う見知った人と書類を抱え直しながらも頭を下げて挨拶している。
相変わらずのお人よしだと思う。そこが彼女のいいところではあるが…。

荷物を机に置いたシズネはトレイに秋刀魚定食を乗せて椅子に座った。
行儀よく両手を合わせて食べ始める。
時間を気にしてか時計をチラチラ見ているのが傍目にもよく分かる。


「(あーあ…そんなに急いで食うと喉に詰まらせるぞ…)」


「あっ!シズネさん間違って味噌汁にふりかけ掛けましたよ!」
「急いでるから間違えたんだな…変な所で抜けてるよな…な、ゲンマ」
「あぁ…」


言葉短く返答するがシズネからは目を離さない。
誤って味噌汁にふりかけを掛けてしまったシズネはそれに気付かず味噌汁を飲んでいる。急ぐあまりかそれに気付いてもいないようだ。もくもくと食べる事に集中している。
ご飯をかっ込んでいるが、…予想通りに喉につまらせたようだ。苦しそうに胸を叩いている。

「今度は喉に詰まらせましたね…」
「シズネ…飯は落ち着いて食うべきだと思うぞ」

隣でライドウの世話焼きなセリフが耳に入る。

「お茶…飲めばいいのに…」


イワシの最もなセリフと同時にシズネがお茶で流し込んだようだ。
額に滲んだ汗を拭いながら一心地ついたシズネはトレイを片付けると沢山の本と書類を抱え…ようとして書類の束を崩した。
それは床にハラハラと舞い散って辺りは凄然となった。周りの人間が拾うのを手伝いシズネも回収に掛かっている。
丁度こちらまで舞って来たらしい一枚を足元から拾い上げると、ようやくこちらに気付いたシズネがやって来た。


「すみません!ゲンマ、それ!」
「ん、気ぃつけろよ…それから行ってらっしゃい」
「はいっ!それじゃゲンマ達も午後からお気をつけて…行ってきます」


そう言うとシズネは明るいいつもの笑顔を見せて駆け出していった。

ゲンマの手元にある書類を受け取らずに…



「なんて言うか…シズネさんって和みますよね…」
「ああ…癒し系?」
「…どっか抜けてるだけだろ」


「あれ?ゲンマさんどこ行くんですか?午後の任務の時間にはまだですよ」
「シズネの忘れもん届けてくる」


ヒラヒラと一枚の書類を揺らすとゲンマは足早にシズネの後を追って行った。



「なんて言うか…ゲンマさんも和みますよね…」
「ああ…あいつもどっか抜けてるんだよなぁ…」

「あの二人って本当に癒し系ですよね」
「マイナスイオン出てるよな…」




穏やかに語るライドウ、イワシが見る先には今までゲンマがいた席。
そこには、ゲンマがいつも銜えている長楊枝が置き忘れていた。