「聞いて下さい、この間ゲンマと綱手様で温泉に行ったんですよ〜」
「それで、綱手さまとゲンマったら」
「でね〜何て言ったと思います?」

「ちょっと待った。シズネ…」



楽しそうに喋るシズネに紅は制止の言葉をかけた。
いい所で待ったを掛けられたシズネはわけも分からず言葉を切り、首を傾げる。
何故かニヤニヤした笑みを浮かべるアンコも側に居る。


「あんたねぇ…この間の休みの日も3人でご飯食べたって言ってなかった?」
「はい。そうですけど…?」
「あはははー!こりゃ良いわ!」


真剣な顔の紅とは打って変わって腹を抱えて笑い転げるアンコ。
どうして笑われているのか理解できないシズネ。
それを静かに、なるべく関わらないように見守っているライドウ。


「あんた達本当に付き合ってるの?!」
「へ?つ、つつつきあってる?!そ、そんなゲンマはただの同僚で!」
「あははっ!ゲンマかわいそ〜恋人にこんな事言われて上に毎回のデートは保護者同伴!」


紅の問いかけにシズネはたちまち真っ赤になって首を振って縮こまる。
そんなシズネを見て紅がアンコを嗜めシズネに向き直った。


「隠さなくてもいいの。これは由々しき問題よシズネ。あんた達…それでどこまでいったの?」
「どこまでって…火の国からは出てませんけど」
「だーっ!だから!あたし達が聞きたいのはゲンマとHはしたのかって事よ!」



「ブーーーーッ!!!!!!!」



我慢のきかなくなったアンコがストレートに切り出すと部屋の端で茶を飲んでいたライドウが噴出した。
いち早くシズネがそれに気付いてライドウの元へ駆け寄り世話を焼く。


「大丈夫ですか?これで噴いてください…」

そういいながら甲斐甲斐しく世話をやくシズネの顔は真っ赤に染まっており、ライドウは途端にゲンマに申し訳ないような錯覚に陥った。


「ふーん。その調子じゃヤルこたヤッてんのね〜」
「アンコ下品よ…でも、それを知って私も少しは安心したわ」


アンコは団子の串を加えたままニヤニヤ面白がるような笑みでシズネを見やり、紅は紅でまるでシズネの姉でもあるかのように安堵する。

そんな二人を見ながらライドウは心のうちで
「(ヤバイ)」
それだけが駆け巡る。


シズネは何かに耐えるようにプルプル震えている。


今の状況は決して、シズネ、ゲンマの両名にとって良いものではない。寧ろ最悪だ。
二人を間近で見ているライドウはそう悟った。

紅とアンコをそろそろ止めに入らないと後々やっかいな事になりかねない。
溜息をつきながらライドウは紅とアンコの方に歩き出す。
すると…



「わ、わたしは何も言ってません!ゲンマとは手を繋ぐくらいですーっ!」




シズネの叫び声が部屋にこだました。


   
ガラッ



丁度その時乾いた音を立てて扉が開いた。
顔を覗かせたのは話の渦中の人物。
不知火ゲンマ。



「ゲンマも何か言ってください!わ、私達はまだ清い仲だって事を!」




泣きそうに真っ赤な顔でゲンマに詰め寄るシズネ
ライドウの疲れきったゲッソリした顔
紅の同情するような視線
それにアンコが必死で笑いを堪えている姿。



それらを目にした瞬間、察しのいいゲンマは何があったかのか悟る。
頭をガシガシかきながらシズネの気を落ち着かせようと、そっとシズネを抱きしめる。
柔らかな黒髪を撫でながらシズネの耳元で
「五代目が呼んでたぞ。早く行ってこい」
そう囁くと、シズネはぎゅうっとゲンマの背に腕を回して部屋から出て行った。



「…で、何話してワケ?」



「聞いたわよ〜?あんた保護者同伴でデートな上にHもしてないんだって?」
「情けないわね…ゲンマ。それでも男?シズネみたいな娘ははっきり言わないと伝わらないよ」



ここぞとばかりに女性二名がからかう視線をゲンマに向けた。ライドウは両手を合わせて謝る仕草をしている。



「…今は、まだ。まずは外堀から徐々に埋めんだよ。あいつが里に帰った時から…時間はたっぷりあるからな…」



飄々した口調で事も無げに言うとゲンマは後手に手を振っていつもの調子で部屋から出て行く。
出て行ったシズネを追いかけて五代目の所へ向かったのだろう。
残された3人はシズネ、ゲンマが出て行った扉を見つめ。





「「「シズネ…大変な男に捕まったわね(な)」」」