「ねぇゲンマ…人ってどこから来てどこへ行く思う?」
彼女の何て事のない一言。
いつもの日常の中の一コマ。
緩やかな風の流れる木ノ葉の昼下がり、木の葉が舞い散る里には秋の気配が漂っていた。
「さぁ?俺には分からん…」
短く返す。
「ふふっ…そっか。私にも分からない」
彼女の意図が見えない俺は首を傾げる。
夏のキツイ日差しとはうってかわって、柔らかな太陽の光が窓から降り注ぐ。
シズネの頬に睫毛の影が落ち、いつもとは違って儚げな印象を受ける。
今にも消えてしまいそうな…
そう思うと自然と手が伸びていた。
シズネの細い手首を掴み、自分の胸へと引き寄せる。
小柄な華奢な身体はすっぽりと腕の中に納まった。
抱きしめるたびに思うのが「シズネはちゃんと食べているのだろうか」と言うことだ。
少し力を込めるだけで折れてしまいそうな細い腰。
少々心配になってくる。
「…どうしたのゲンマ?」
気がつかない内に力を入れすぎていたらしい。
シズネが胸の中でくぐもった声でこちらを見上げてきた。
「あー悪い…お前ちゃんと食ってんのか?」
「心配されなくてもちゃんと食べてるわよ」
「今日、飯食いに来るか?」
「…変な事しない?」
思わず銜えていた千本を落としそうになった。
じーっとシズネの瞳を覗きこみ、デコピンをする。
「いったぁ…もー冗談よ!」
「んな冗談言ってると…するぞ。本当に変なコト」
額を抑えたシズネの頬が瞬時に面白いくらいに赤く染まった。
くくっと喉奥で含み笑いしてからシズネの額を一撫でするともう一度手首を掴む。
「どこから来てどこへ行くのかは俺には分からない…でも
俺はお前のところへ帰ってくる…保証は出来んが、約束する」
そう告げるとシズネの返答を待つ事無く手首を掴んだまま歩いていく。
紅く色づいた木の葉がハラハラ舞う中ただ二人で歩き続ける。
何て事無い、
いつもと変わらない日常の中の一コマ。
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