「あ〜シズネさん本当っ、可愛いなぁー」

「お前さっきからうるさいぞ」
「だってライドウさんもそう思いません?あの清楚な感じとか物腰たおやかな所とか
もうたまんないですよ!はぁー…シズネさんやっぱり彼氏とかいるのかな」
「そりゃどーだろな?あの五代目にずっと付きっきりで噂によると、
シズネに近付くやつは五代目によって、遠方の任務に強制的に就かされるそうだぞ?」
「えー!?マジっすか!?」
ガクリと肩を落とすイワシをからかっているとゲンマが帰ってきた。


「遅かったなゲンマ」
「ちょっと書類提出に手間取ってな…つーかお前ら外まで会話聞こえてたぞ」
「ゲンマさんもシズネさんの事可愛いと思うでしょ!?」


すっかり舞い上がってしまっているイワシがゲンマに同意を求めている。
その顔は恋するもののそれになってしまっている。
ライドウはやれやれと溜息をついた。


「(可愛い…ねぇ…)」
「任務の時は人が変わったみたいになる所がまた良いんですよ〜あれもギャップって言うのかな」


考え込んだゲンマを余所にイワシは一人でシズネについて語っている。
ライドウはすっかり話の輪から外れて部屋に備え付けられたテレビに見入っている。



まぁ、可愛いと言えば可愛い部類に入る…か?
あいつの可愛いっつーのは容姿云々が外見より幼く見えるせいもあるが…
容姿よりも性格が可愛いと言った方が正解かもな…



物思いに耽ったゲンマには構わずにイワシはまだ言い続けている。

「シズネさんってスタイル良いですし、脚も綺麗だって狙ってるヤツ密かに多いんですよね
競争率高いし、中忍の俺にとっちゃ高嶺の花でよ」
「脚ねぇ…」


自分の世界に入り込んでいたゲンマが現実へと引き戻されイワシの話に相槌をうつ。


「お前シズネの脚見た事あんの?」
「あります!時々シズネさん五代目探して里駆け回ってるから、その時着物の裾が肌蹴て見えちゃうんですよ…もう垂涎もんっす!」
「ま、確かに脚は良いとしても…胸は?」
ゲンマの冷静な指摘にイワシは微妙な表情をする。

「いやー…シズネさんは胸は…その残念な感じですけど
性格も控えめ、胸も控えめって噂されてますね…俺は貧乳でも全然良いんですけど!」


「…シズネは言うほど貧乳じゃねぇぞ?」



「…え?」



部屋の空気が凍りついた。ライドウはそう感じた。
テレビの再放送の時代劇が一番良い所の場面で
主人公の老人達が悪代官に印籠を見せ付けて跪かせているのが目に入る。


この凍りついた空気をどうすればいいのか
解決手段を持たないライドウは一人で途方に暮れる。
イワシはポカーンと口を開いて言葉が出てこないらしい。



ゲンマの放った言葉はそれ程に破壊力が強かった。



暗にシズネの裸を拝んだことがあると言うわけだ。
本人は至って飄々とした態度を依然と崩さない。あるいはこの空気に気付いていないだけかもしれない。
あれ程イワシが今までシズネについて語っていたのが実はシズネには相手がいて、
それがいつも任務をこなしている仲間だとはイワシも思わなかったのだろう。


冷たい空気の中もゲンマは変わらずに時計を見て
「おい、そろそろ時間だ。行くぞ」
いつもと変わらず任務の集合時間だと先を促す。
フラフラと白昼夢でも見たような足取りでイワシが部屋を出て行く。
それを心配しながら見送ったライドウがゲンマを振り返り、



「…牽制?」




「さぁ?どうだろな」

くっ、と喉を鳴らしてゲンマが笑った。