「わぁ〜ゲンマ見てください!あれっ!」
「あぁ?…そういや七夕か…」

任務の無い休日、ゲンマとシズネは久しぶりに2人っきりの休みを満喫していた。
今年は梅雨入りが遅く、ジメジメと蒸し暑い日が続いている。
そんな中、アカデミーの前を通りかかったときだった。

シズネが校庭の端に短冊や折り紙で飾られた笹を見つけたのだ。

「懐かしいですね〜アカデミーの頃、七夕に短冊書きましたよね」
「そうだっけか?」
「もぉーそうですよ!ちゃんと願い事も覚えてますもん」
「去年のか?何て願ったんだよ」

力説しているシズネがやけに微笑ましく、口端をあげてゲンマが訊ねる。
…と、途端にシズネの頬が赤く染まった。
おや?とゲンマが首を傾げる。

「な、あ、ななな…なんでゲンマにそんな事教えなくちゃダメなんです!」
「興味本位で聞いただけだが…言いたくなきゃ言わなくても構わないぞ」

このシズネの慌てようにゲンマは目を丸くし、何となく書いた内容が分かった気がした。
なので言及はせずにチラッと笹に視線をやるとシズネを残して再び歩き出す。


先に歩き出したゲンマの背中を眺めながらシズネは両手で赤い頬を包み込んだ。
飄々と一人で歩いていくゲンマの広い背を見つめた後にもう一度、笹へ向き直る。
ぬるい風に笹の葉や短冊が涼しげに揺れている。

「ゲンマのバカ…願い事は人に話すと叶わないんだもの…」

小さな声でシズネが呟く。
その声は勿論離れたゲンマには聞こえるはずもなく風に消える。


「ずっと一緒にいたいなんて…昔から変わってない願い…言えるわけないじゃない」





遠い昔のようで今でも目を閉じると昨日の事のように思い出す過去。

あの時も暑い日だった。
アカデミーを先に卒業して下忍になったゲンマ。
それまでは年も近いこともあり一緒にいることも多かったが会えない日が多くなった。
そんな時にアカデミーで七夕に願い事を短冊に書く行事があったのだ。
その時に願いを込めた思いは今も変わらずに胸の内にある。

「私…成長してないのかしら」

呟きながらもシズネの顔は柔らかな微笑みを湛えている。

「シズネ何やってんだー置いてくぞ」

先に歩いていたゲンマが立ち止まって待っているのが見えた。
慌ててシズネはその場からゲンマの所まで駆け寄る。

あとに残ったのはサラサラと涼しげな音を立てる笹の葉だけだった。